短歌でつづる「ビルの谷間」

 電車を降りると流れるように人ごみの中へ入っていく。とてつもないビルの谷間を私も歩く。ここはN市、便利で働くところはいくらでもあるしお金さえあれば欲しい物はなんでも揃います。みんな賑やかなところがいいのです。だからいっぱい人が集まるのです。

   人ごみの中の一人(ひとり)それらしくビルの谷間を流れて歩く

   こつこつと靴が冷たい音をたてオフィスの朝が始まっている

 たまには独りで一杯飲んでみる。

   飲めないお酒に酔うてゆらゆらとビルの谷間が妖(あや)しく光る

   はく息に赤いワインの香りしてビルの谷間の夜物語

  田舎者の私でも住めるかもしれない。

   いったい私は何者(なにもの)もしかしてビルの谷間に住めるかもしれぬ

 旅が終って駅に降りたとたん・・夢がさめるのです。

   ふるさとの駅にもどればたちまちビルの谷間の魔法がとける

 村には冬がやって来ました。木の枝で柿が一つ誰かを待っています。

私の外に誰も歩いていません。でも時は流れています。

   廃屋のならぶ村あり晩秋の熟した柿が待つ人はだれ

   本日の村の出来事足下(あしもと)をころころ走る落ち葉にであう

 

ビルの谷間の人ごみの中でどうしようもない大きな格差を知らされた旅でした。

 さて、今日は檀家のおばさん達とこの旅のみやげでお茶会が始まりました。病気や入院、後継者の話、畑や田んぼの話し、猫や犬の話しまで出て来ます。庫裏いっぱいに愉快な笑い声が響きます。

 やがて薄暗くなり始めると、いつものように「あー今日はよかった」と言いながら帰って行かれました。

 まわりには解決出来そうにない大きな課題があふれていますが「幸せってなんだろう」と考えさせられます。私も日常にもどってしまいました。                    喫茶去!喫茶去!

 

                                         (副所長 楫野光範)

 

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