「奥出雲のエンターテイナーと呼ばれて」(佐野書記)

 「奥出雲のエンターテイナーと呼ばれて」
 
ある小説家が、最新作の本の売れ行きを出版社に尋ねた手紙に書いた文字が、「?」。それに対する出版社の回答が、「!」。この「?」→「!」が、歴史上最も短い手紙のやり取りだといわれている。疑問符「?」からは、本の売れ行きを心配する作家の不安な気持ちを、感嘆符「!」からは、この作家の不安を打ち消すほどの売れ行きに興奮する出版社の驚きや喜びを読み取ることができる。

さて、今回の題名・タイトルだが、『ほんとうに奥出雲のエンターテイナーと呼ばれてるの?』という疑問が聞こえてくる前に訂正をしておく。末尾に「え」が抜けていた。『奥出雲のエンターテイナーと呼ばれてえ』

願望だった。奥出雲なのになぜかべらんめぇ調だ。

また、今回の題名・タイトルに関しては、この他にも『「奥出雲の」って奥出雲を代表する存在なの?』とか、『僧侶なのに「エンターテイナー」ってどういうこと?』、『そもそも「エンターテイナー」って何?』等、疑問はたくさん聞こえてきそうだが、とりあえず聞こえないふりをしておく。私の長い顔と耳には、馬面の耳に念仏だ。

改名をして知名度アップを図ろうとしている自治体がある。もちろん、本当に変更するわけではないだろうが、話題作りにはなるだろう。例えば、香川県の「うどん県」や滋賀県の「びわこ県」、鳥取県も「かにとり県」としてカニの水揚げ日本一をアピールしている。

わが自称エンターテイナー住職の高禅寺も負けてはいられない。例えば、「KOH(コー)禅寺」。「高」をアルファベット表記にすることで、明るい印象を与え、若年世代からも支持を得られるのではないだろうか。さらには、POP(ポップ)なお寺という印象付けができそうだ。エンターテイナーを印象付けるためには、おもいきって「好禅寺」や「笑禅寺」もありかもしれない。空想はまだまだ続く。

しかし、知名度アップや話題作りも大事だがやはりウチのお寺は「高禅寺」だ。「禅」に高い低いや高い安いはないが、高い禅の寺、「高禅寺」だ。「名は体を表す」という言葉もある。『住職、しっかり!、お寺の名を汚すな。』耳が痛いが、そんな言葉が聞こえてきそうな束の間の改名妄想であった。

ところで、お寺には様々な方から様々な疑問が届く。「高禅寺?」、「お寺?」という問い、‘ザ・クエスチョン’に対して、「高禅寺!」、「お寺!」と明確な答え、‘ジ・アンサー’を出し続けることが、エンターテイナーの役割りではないだろうか。だが、答えを出す私自身もたくさんの「?」を抱えている。疑問を抱きながらも歩むこと、「?」を「!」とするために学ぶことはたくさんある。それが、「煩悩即菩提(ぼんのうそくぼだい)」、「修証一如(しゅしょういちにょ)」ということなのだろうか。

僧侶は人々の悩み、迷い、苦しみに直面することが多々ある。そのような場面に出会ったとき、悩み、迷い、苦しんでいる自分だからこそできることが必ずあると信じて仏法を説く。

エンターテイナーとは、人々の悩み、迷い、苦しみを受け止めて、「楽」を提供する存在ではないだろうか。そんな存在に私はなりたい。

「答え」を出すためには、悩み続けるしかない。悩んで学んで答えを出す。これが今、断言できる私の「答え!」だ。

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