「星影のワルツ」のガセネタ (岩田所長)

 以前 テレビをつけたまま事務仕事をしていた時、歌番組が放送されており、多くの歌手の中で千昌夫が出演していた。何を歌ったかは定かでないが、昔のあることを思い出しながら聞いていた。千昌夫の代表作「星影のワルツ」は作詞 白鳥園枝氏、作曲 遠藤 実氏で、200万以上売れ、カラオケでも多くの人が歌ってきた名曲である。

 その歌詞についてある噂話が突然出てきた。この詩は結婚差別によって引き裂かれた、

被差別地区の青年の慟哭を歌ったもので、作者は別にいて、しかもその作者が原詩を作詞家に金で売ったとの噂であった。

 その頃、宗門の人権学習はまだ同和学習が中心であった。第三回世界宗教者平和会議における差別発言を機に、解放同盟より糾弾を受けその後、祖録・差別図書の徹底検証、差別戒名過去帳、差別戒名墓石の改正に取り組み、差別戒名物故者法要、また、現地学習も多く取り入れられ管区、宗務所人権学習でも取り入れられてきた。わずかずつではあったが進展をみせ、解放同盟からも人権に取り組む姿勢が徐々に認められるようになってきた。それら宗門に課せられた課題から少し離れ差別事例を取り入れながら就職差別、結婚差別などの学習も受けてきた。

就職差別では、同和地区出身者の名簿、住所録が発行され多くの差別を生んできたこと結婚差別では男女どちらかが地区出身で結婚を決意したものの、両親を始め親戚までもが猛反対し泣く泣く別れたり自死を図った人もいたりと様々な差別の実態を聞いてきた。

そんな中で、「星影のワルツ」にまつわる噂話が出てきた。

その歌詞は、『別れることは辛いけど、仕方がないんだ君のため、別れに星影のワルツを

歌おう、冷たい心じゃないんだよ、冷たいこころじゃないんだよ、今でも好きだ死ぬほどに』である。結婚差別の話を聞いてきた者には、歌詞を見れば前述の噂話が妙に本当のように思えてき疑いも持たず信じても何ら不思議ではなかった。そして、人権啓発に関わる人たちに瞬く間に広がり、結婚差別の歌という認識が定着したという。

 しかし、数年後この結末は、お粗末なホラだったのである。原詩を作ったという本人が、友人にあの話は酒の上でのホラであったと告白したのである。更にある新聞記者の取材で明らかになった。この噂話は公にはなっておらず、白鳥園枝氏も知られずにおられ取材を受け明らかになった時、激怒されたとも伝えられている。

 今、改めて思えば単なる噂話を疑いもせず信じ、詳しく調べることさえしなかったこと

反省をしながら、知ったかぶりをして多くの人に話したりしなかったこと、唯一の救いであった。

 情報過多の現代、SNSのガセネタ、スマホ詐欺等、先ずは疑いの目を向けながら対応しなければならない嫌な時代を迎えた。

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