円(まろ)やかに描かれた円相は、禅の心や 宇宙の真理を表すといわれます。つながって続く円やかさの故でしょう。曲線の、直線では及ばない穏やかさ、和やかさ、優しさとも無関係ではないと思います。
そういう曲線で思い浮びますのが、江戸時代後期の曹洞宗僧侶で、書画に優れ、出雲との関わりが深い、風外本高(ふうがいほんこう)禅師、風外さんの落款署名です。
冒頭の「風」の字が心和む曲線で表わされており、「つくえ」と呼ばれる部首(几)の描き方が、あたかも蛸(たこ)の、滑稽で親しみあふれる丸い頭をなぞったように見えるのです。禅師のことを「蛸風外(たこふうがい)」と呼ぶ所以(ゆえん)なのです。
そう呼べば、江戸時代初期の、やはり絵画をよくし、寺を捨て岩穴に住まいしたと伝えられる「穴風外(あなふうがい)」こと風外慧薫(えくん)禅師と、私たちは区別できる訳です。
〔風外さんの落款署名(部分)〕
蛸風外さんは伊勢で生まれ、出家し、但馬・難波・三河など縁(ゆかり)の地が多いですが、出雲での足跡にも注目が注がれます。温厚な人柄と誠実な言行で布教に勤めながら、斐川勝部家との出合いにより6度にわたって来雲、その書画の技量を振るいました。遺された多くの「風外さん」が大切に、または、ひそやかに親しまれてきたのです。
風外さんについては、宗務所護持会研修会(本年7月24日)で出雲文化伝承館藤原隆先生による興味深い講演をお聴きしました。それゆえ皆さまの関心も深まり、期待が膨らんでいますのが、10月16日㈮~11月29日㈰に、出雲文化伝承館と平田本陣記念館で同時に開催される風外さん来雲200年記念の特別展『出雲の風外さん』です。
身近な寺院も含め県内外から約百点の「風外さん」が展示され、その業績を顕彰しようという、風外さん三昧の意欲的な特別展覧会です。私たち宗務所も山陰中央新聞社と共に後援を致します。是非ご鑑賞頂きますようお勧め致します。
折しも島根県立美術館では、京都・細見美術館のコレクションから寄せられた伊藤若冲や円山応挙・池大雅らの絵画などを展示する「伊藤若冲と京(みやこ)の美術」が開催されます(9月18日~11月3日)。 『出雲の風外さん』と「京の若冲・応挙・大雅」との観比べも面白いのではないでしょうか。そして、池大雅こそは風外さんの書画の師ですし、出雲へ来遊し勝部家とも縁があったのですから、この二つの展覧会は、円やかな縁でつながっているようにさえ思えます。皆さまもそのご縁に与かられては如何でしょうか。
〔人権擁護推進主事 山口完爾〕