ヒーローとは利他的な超人(板倉人権擁護推進主事)

昨年12月に人権擁護推進主事を拝命した板倉です。任期中よろしくお願いします。

 

本来であれば、本稿で就任にあたっての所信や事業方針などをご説明する予定でした。

しかし過日の「執務帖」において、梅花主事の糸賀師が、『HEROを信じますか?』と題して寄稿をしておられました。

彼とは同い年で、学生時代からの長い付き合い。今では宗務所でのワークスペースが隣り合わせという「鏈(くさ)れ縁」です。

筆者の趣向性もよく知っているはずの彼が、断りもなく「ヒーロー」についての能書を披瀝をするとは。

自称「特撮好き」としても看過できない、なんたる抜け駆け。ここはアンサー投稿させていただきましょう。

 

 

この十数年間、「ニチアサ」が視聴習慣となっていて、「特撮」と聞くと良し悪し問わず渉猟し続けている筆者には、「ヒーローとはどういう存在か」という問いに対して、筆者なりの解答があります。

 

それは、ヒーローとは「利他的な超人である」ということ。

 

よくある特撮作品だと、敵は「究極の自我」を確立する計画のために暗躍し、他者の生存権を侵害します。戦士がそれを打破していき、やがて手に入れた「自由」が最終的に「世界の自由(平和)」に昇華されることで、戦士はヒーローという存在になっていくのです。

 

先ごろまで日本国中を熱狂の渦に巻き込んだ野球の世界大会WBC。そのヒーローと言えば、MVPを受賞した大谷選手でしょう。

彼が野球に取り組んだきっかけは、「自分の夢」の実現のためだったかもしれません。しかしそれがいつしか多くの人の「夢」として(一時的に)共有された。「自利」を追求した結果として甚大な「利他」に結びついたからこそ、彼は「ヒーロー」になり得たし、「映画や漫画みたい」と称された結末に至ったのではないでしょうか。

ヒーローとは、主格ではなく所有格。「私はヒーロー」ではなく「私(たち)のヒーロー」と称されなければ意味がない。ヒーローの躍動は自己実現と多く接面した利他の顕現なのです。

 

またヒーローが「滅私的」であってはいけません。

長く特撮作品を見ていると、時として「ヒーローの死」という場面を目にします。物語の中で鑑賞者の感情の機微に最も突き刺さる「登場人物の死」。

しかしヒーローはただ死にません。仲間の献身による何らかの奇跡で復活するか、その意志を受け継ぐ者が現れるものです。自己実現がまた別の形で、他者によって果たされる。これも利他の一面です。

 

そして何よりも凡人とヒーローの決定的な違いが「超人かどうか」。

野球で言えば、イチロー選手や大谷選手が、仮に他の選手とは異なる存在とするならば、それは「(取り組みや成績が)超人的である」に尽きるのではないでしょうか。才能と努力が高次で相俟っていなければなりませんし、「超人」であることが、ヒーローの条件として最も得難いものです。

 

凡夫である私たちのほとんどは、ヒーローにはなれないかもしれません。

しかしヒーローの良い面を学び真似ることはできるのだとしたら、「利他的な自己実現」を志向して、幾許かでも達成する努力を惜しまないこと、ではないでしょうか。

 

実は今、この「利他」が(密かに)注目されています。

東京工業大学の「未来の人類研究センター」では「利他学」がテーマとして掲げられ、その理由として、

「自分のためではなく、自分でないもののために行動する。一見不合理にさえ思える、しかし私たちが確かに持っているはずのこの人間の性向のなかにこそ、人類について、社会について、科学技術について、まったく新しい仕方で考え直すヒントがあるのではないか、と私たちは考えています。」

と謳われています。

コロナ禍によって人間関係や社会生活が再構築されようとする中で、この「利他的かどうか」ということが、今後一層私たちの日常の振る舞いに問われるのではないでしょうか。

具体的にどうしたらいいのか。紙幅もあるのでここでは詳細は割愛しますが、仏典や「未来の人類研究センター」の研究成果などを参考にしましょう。

 

「凡人である私たちが利他に徹することは難しい」。

そんな心が萎えそうな時は、私たちも「変身」をするのです。

特撮の世界では、多くのヒーローが「変身」します。私たちが、ヒーローの「利他」を学び真似る時のきっかけとして、「(恥ずかしい時は心の声で)変身!」(「王鎧武装!」や「スカイミラージュ!」でもいい)と唱えましょう。市井の小さな「変身」、志や祈り、誓いの積み重ねが、やがてヒーローに人智を超えた力を与えていくものなのです。

 

最後に業務連絡。糸賀師の投稿にはふんだんな画像転載や引用が見受けられますが、著作権管理に抵触する場合があるので、気をつけましょう。

(人権擁護推進主事 板倉)

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