一昨年の秋、ドイツに在住中の同じ趣味を持つ友人(日本人)から電話で「インドのトイ・トレインに乗りに行かないかい!」と突然電話があった。以前より興味があったので乾季の気候が安定している日程を調整して行く事にしました。
大阪関西国際空港からは私の一人旅で中国上海浦東空港で乗り継いで約12時間予定通りインド・ニューデリー・ガンディラ国際空港で友人と落ち合い、予定していた国内線でトイ・トレインの出発地インド東北部のシリグリ(Siliguri)に向かい、前もって契約をしていた英語・ヒンディー語・日本語の話せるガイドと共に駅側の跨線橋の上でトイ・トレインが来るのを待ちかまえていました。
待ちかまえていると何やら私の横に人の気配を感じました。振り向くとそこには10歳位のインドらしい派手な服装を着た少女が小声で何やら私に話し掛けていました。おそらく現地のヒンディー語であろうと思いますが英語すらまともに聞き取れない私には何やら全く理解出来ず、身振り手振りで話しを合わせるのがやっとでした。しばらくして少女が左手を差し出して英語で「Give me chocolate!(ギブミー・チョコレート)」とささやいて来ました。やっと理解できた言葉ではありましたが荷物はほとんどホテルのクロークに預けた後で手持ちの物は全く無く仕方なく「Not have!(持っていない)」と答えると、知らぬ間にその少女は私の側から姿を消していました。
後でガイドにその事を話すと、ガイドは口ごもった様子で「その子は、おそらくアウトカーストでしょう。今インドでは現金での物乞いは禁止されているので、マネーがチョコレートに変わっているだけですよ。」と、今の時代にアウトカーストという言葉に大きな衝撃を受けました。
インドのカーストによる身分制度は、高校の世界史の時間に学習した覚えがあり、「バラモン(宗教的支配者)・クシャトリヤ(貴族や武士階級)・ヴァイシャ(一般市民)・シュードラ(奴隷)」と教わりその当時は教育指導要領にも「アウトカースト」という言葉は無かったような気がします。大学に入ってから選択科目で「インド仏教学」を選択した時、初めてカースト階級にも属さないそれよりもさらに下層階級(カーストの外)に属し、触れるだけでも汚らわしいとされる不可触民(ふかしょくみん)、チャンダーラとか漢訳仏典では旃陀羅(せんだら)とも呼ばれた、屠畜業者や街路清掃人など職業の世襲化など多くの差別を受けてきた人々がいた事を知り、釈尊は元々貴族ですからクシャトリアに属しながらカースト制度に強く反対していました。「釈尊の教えを理解するためには、まずチャンダーラを理解して下さい。」と教えて下さったのは元大本山永平寺の西堂故奈良康明先生(当時駒澤大学教授)でした。
カースト制度は1947年にインドがイギリスから独立し、1950年に制定されたインド憲法の17条により、不可触民を意味する差別用語は禁止され、カースト全体についてもカーストによる差別の禁止も明記されたが、外面的には下層階級であってもビジネスの成功により富豪となった人もいたり助々に外面的には無くなりつつはありますが、今もなおカースト制度から派生した男女差別や職業差別など特に貧困による児童に対する強制労働など形を変えた差別が現存している事に衝撃を受けました。
もう一つ残念なのはシリグリ駅側の跨線橋であった少女の笑顔がどんなに可愛かったかと想像すると、笑顔を見る事が出来なかったのには今でも残念でなりません。
トイ・トレイン
正式にはダージリン・ヒマラヤ鉄道(Darjeeling Himalayan Railway)と呼び、インドの東北部に位置し紅茶で有名なダージリン地方を全線約80㎞を約8時間を掛けて走る登山鉄道です。小さなおもちゃのような鉄道は愛称として「トイ・トレイン」と呼ばれています。2005年には鉄道としては初の世界遺産に指定されたが、毎年訪れるモンスーン(台風)により路線倒壊が頻繁し未だに全線復旧をしていない状態です。
ダージリン・ヒマラヤ鉄道YouTtube動画
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