ヒーローと人権(板倉人権主事)

9月に全国の各宗務所を対象とした人権擁護推進主事研修会に参加した時のこと。

奈良県御所市柏原の『水平社博物館』を見学していると、「的ヶ浜事件」についての展示があり、その中で、マンガ『ワンピース』の「グレイ・ターミナル焼き討ち」のエピソードと関連づけて紹介されていました。

「水平社博物館」

 

『ワンピース』は筆者も一時どハマりしていましたが、「マリンフォード編」以降は熱心な読者とは言えなくなっていました。

一方で現在まで変わらず「特撮好き」を貫き、関連作品を見続けている中で、かねてより特撮の物語作りについて何となく感じていたことが、この展示を見た時にはっきりとした輪郭を成して紐づけられ、同時に『ワンピース』の物語世界についても「そういうことだったのか!」と急に腑に落ちた、そんな気づきがありました。

 

それは「ヒーローとは反権力である」という命題でした。

 

ヒーローの戦いは、大概は底知れない「巨悪」と対峙するもので、当初には「マイノリティとしての抵抗」として始まるのが常套です。そして、やがては世界を巻き込んでいく。

『ワンピース』におけるヒーローとはルフィとその仲間たち。そして「巨悪」は(大きな縦軸としての)天竜人と世界政府、イム様による支配。

つまり『ワンピース』が「革命と自由の物語」だと定義すると、かつての「水平社」や現在の人権活動と言われるものが、体制や保守に対するそれだとも言え、そこに「構造的な類似」が見出せるのです。

現に、西光万吉や駒井喜作といった水平社創立に関わった人たちを、柏原の人たちは「英雄視」していたように、私には感じられました。

こうして「ヒーローの物語の構図」に当てはめてみることで、人権活動に関わる人たちにとっては、保守や体制がまるで天竜人やショッカーのような「巨悪」のように見えており、活動への熱量の所以も窺い知れるのです。

 

実は『ワンピース』の物語世界で「面白い」存在が「海軍」です。

彼らは正義を建前として、世界政府による秩序(保守や伝統)を守るために、革新たらんとする海賊を取り締まりますが、実は内部に『SWORD』という改革派集団を内包しています。

世界政府が単一集団で、海賊が個別の価値集団に対する総称。その一方で海軍には多種多様なイデオロギーのグラデーションがあり、絶えず内部で革新と回帰を繰り返している、いわば「中道」的な存在として描かれているのです。実はこれ、伝統仏教教団の立ち位置と似ていたりする、と筆者は考えます。

 

いずれにしても、作者の尾田先生は熊本のご出身で、かつて隣県であった「的ヶ浜事件」をご存知だった可能性はゼロではないし、現代のヒーロー譚に通底している「反権力」について、『ワンピース』では一貫して描かれています。

その意味で、同和問題や人権問題を『ワンピース』の世界観に置き換えて読み解くのは、案外と重要で有効な学習態度ではないかと思いました。(人権主事 板倉)

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