早いもので、気が付くと4月の新年度が近づいております。とうに締め切りを過ぎておりますこちらの原稿を慌てて仕上げねばと思いパソコンに向かってはいるものの年度末も手伝ってか、他にすることも多く…中々手が…頭が…動いておりません…
そんな中、3月24日夜に行われた2022年カタールワールドカップ(W杯)アジア最終予選・オーストラリア戦。0-0のまま迎えた終盤、日本代表の森保一監督は原口元気(ウニオン・ベルリン)と三笘薫(サン・ジロワーズ)の2枚替えに踏み切り、守備の強度を上げると同時に、ここ一番で点を取って勝ち切るという勇気ある采配に打って出た。
「失点だけはしたくなかったので、そこは意識しつつ、あまりリスクを冒したくなかったんで、攻守のバランスを考えてプレーをしようと考えて入りました」と4年前のロシアW杯ベルギー戦で「ロストフの悲劇」を体験した生き証人・原口は言う。
そこで攻撃姿勢を捨てないのが今の日本だ。後半44分、その原口のパス出しから値千金の先制弾が生まれる。右サイドを上がった山根視来(川崎)がゴール前に入った元同僚・守田英正(サンタクララ)とのワンツーからペナルティエリアの深いところまで侵入。マイナスクロスを上げた。
ここに飛び込んだのが、入ったばかりの三笘。「コースは見えていた」という彼は右足を一閃。敵のゴールにシュートを突き刺す。次の瞬間、森保一監督らベンチは歓喜に包まれる。後半ロスタイムの三笘の2点目も生まれ、日本は敵地未勝利だった宿敵を2-0で撃破した。最終予選序盤3戦2敗という絶体絶命の状況からはい上がり、とうとう7大会連続出場を決めたのである。かく言う私も小学生の頃はスポ少でサッカーボールを日々追い掛け回していた一人であり、この年になってもサッカーの結果は気になるもので、結果は嬉しい結果とはなりました。が…
この三笘がブレイクしたのは日本にとって好材料と言えるが、東京五輪世代の上田綺世(鹿島)、前田大然(セルティック)が絶対的な戦力になり切れていないのも物足りない点だ。南アで当時24歳だった本田圭佑、23歳だった長友佑都(FC東京)らがブレイクしたのを考えれば、同じ年齢層の彼らには伸びしろがあると言えるが、まだまだ未知数の部分が多い。
守備陣に関しても、35歳の長友、33歳の吉田と権田修一(清水)、31歳の酒井宏樹(浦和)ベテラン中心の構成が気になる。もともと森保監督は固定化されたメンバー起用が疑問視されており、彼ら以外の人材をどう戦力にしていくかが今後の大きなテーマだ。特にDF陣には冨安健洋(アーセナル)、板倉滉(シャルケ)、中山雄太(ズヴォレ)といった成長著しい人材がいるだけに、ベテランに頼らない戦い方を模索していくべきかとも思いますが…
幅広い選手起用、戦い方を持たなければ、世界の強豪に太刀打ちできないのは、4年前の経験からもわかることで、それは森保監督もよく理解しているだけに、ここからのマネージメント力が問われるところだ。
彼らが直面する課題は、ピッチ内だけではない。長引くコロナ禍で日本サッカー協会の財政面が逼迫しているのも大きな懸念材料だ。同協会は今月27日に2021年度(1月1日~12月31日)決算を発表。収入は約180億円、支出が約197億円で、約17億5000万円の赤字を計上した。この先のコロナの動向は不透明で、2021年度以降も大幅赤字が続くという見通しもある模様だ。
そこで彼らは今月、2002年の日韓W杯の収益など約60億円で購入した東京都文京区の「JFAハウス」を三井不動産レジデンシャルに100億円以上の金額で売却することを正式決定。1年以内に代表強化拠点である千葉・幕張の高円宮記念JFA夢フィールドからアクセスのいい都内のエリアに転居するという。
■地上波放映なしが与える長期的影響
こうして財政立て直しを図る考えだが、コロナ禍で一度離れた代表ファンがすぐにスタジアムに戻ってくるとは限らない。今月21日にまん延防止等重点措置が解除されたJリーグクラブも観客をいかに取り戻すかで四苦八苦している。鹿島アントラーズの小泉文明社長も「2011年3月の東日本大震災のときもダメージを受けたんですが、観客動員がその前の水準に戻るまでに4~5年かかった」と話していて、代表戦も同様の状況と見られる。協会サイドとしては、今回のカタールW杯出場決定で機運を高めたいところだったが、冒頭のオーストラリア戦が地上波放映なしという異例の事態が起きた。最終予選放映権の異常な高騰によって、日本のテレビ局には手が出せなくなったからだ。
その結果、DAZN側は独占生配信によって過去最多視聴者を更新。投資に見合った効果を上げたと言えるが、歴史的瞬間を多くの国民に見せられなくなった協会は痛手を被った。サッカー好きの人々は当然のようにDAZNに加入しただろうが、一般家庭は必ずしもそうとは言えない。未来を担う子どもたちがサッカーの醍醐味を知る機会を逃したとなれば、この先のサッカー人気にもマイナス効果が出るかもしれない。
実際、昨今は学校体育でサッカーを選ばない学校が増えているという。手を使ったタグラグビーのほうがやりやすいと考える指導教員が多くなっていて、協会は危機感を抱いている。この動きに歯止めをかけるため、「JFA小学校体育サポート研修会」実施校の募集をスタートさせるなど、草の根を広げる努力を続けているが、少子化もあって先行きが安泰とは到底、言い切れないのだ。
そんな背景もあり、日本代表はカタールW杯で成功を収めることが強く求められている。万が一、2006年ドイツ大会や2014年ブラジル大会のように1次リーグで惨敗してしまうと、サッカー離れが加速してしまう懸念もある。
森保監督や長友、吉田といったベテラン勢はそういった現状をよくわかっているから、メディアやSNSを通した発信に熱心で、積極的にインタビューにも応じてくれるが、若い世代もよりその意識を高める必要がありそうだ。ピッチ上でいいプレーを見せるのは当然だが、サッカー選手がアスリートとしても人間としても魅力的でなければ、子どもたちの心には響かないだろう。
最終予選最大の転機となった昨年10月のオーストラリア戦(埼玉)で殊勲の先制弾を挙げた若手のホープ・田中碧(デュッセルドルフ)が「小さい子どもたちが自分たちがW杯に出ている試合を見られるように、必ず勝って次につなげたいと思っていた」と熱く語ったが、そういう思いを前面に押し出して、全員がガムシャラに大舞台に向かっていけば、長年足踏みしてきた8強というハードルをきっと超えられるはず。そう仕向けていかなければいけない。
そして、過日4月1日にカタールW杯の予選抽選会が開催され抽選の結果、日本はグループE。対戦相手はドイツ、コスタリカ対ニュージーランドの勝者、スペインに決まった。はたしてグループリーグ突破は可能なのか。
英国の大手ブックメーカー、ウィリアムヒル社の予想によれば、グループEの突破確率はスペイン1.83倍、ドイツ2.1倍、日本15倍だ。すでに発表されているドイツ対日本の対戦倍率も、ドイツ勝利が1.36倍で日本勝利が8.5倍と、大差がついている。日本が2位以内に入ることは大番狂わせに値すると言われているも同然だ。
もっともスペイン、ドイツ両国が最近で一番強かったのは、スペインが2008年~2012年で、ドイツが2014年前後だ。それぞれ圧倒的な強さを誇った10年程度前より、力は幾分、落ちている。少なくとも選手のポテンシャルは、常に右肩上がりを示していて、いまがピークの状態にある日本との戦力差は、いくばくか接近していると考えるのが自然だ。
このギャップに、実際に対戦したドイツ、スペインが慌ててくれればしめたもの。こんなはずではなかった……的な反応を示したならば、差はさらに縮まるかもしれない。番狂わせはそれなしには期待できないし、なにより、それを誘発するような森保一監督のベンチワークが不可欠になる。
もうひとつのポイントは2戦目(コスタリカorニュージーランド)の戦い方だ。3戦目のスペイン戦を見越した戦い方ができるか。1戦目、2戦目をベストとおぼしき固定メンバーで戦い、3戦目の先発を大幅に入れ替えて臨んだ、前回2018年ロシア大会のような起用法では、スペイン戦の敗北は戦う前から見えている。日本の可能性は監督采配で大きく左右される。
W杯出場は決定と言えど…
2010・2014・2018年と3つのW杯で4ゴールという離れ業をやってのけた本田圭佑を見てもわかるとおり、最後はやはりメンタルだ。「W杯のためにサッカーをやってきた」というくらいの闘争心と勝利への渇望を何人の選手が示せるのか。それが成否の分かれ目になる。ここからラスト8カ月間の熾烈なサバイバルと森保監督のマネージメントをこちらも熱い気持ちで見続けていきたい。
(梅花主事 糸賀一峰)