6月の27日28日に平成28年度檀信徒本山研修会が、大本山永平寺を会場に153名の参加者を得て開催されました。
行持綿密、時間厳守、三黙道場、飲酒厳禁などなど、〝禁則標語〟が満載の本山研修会ですが、檀信徒の方々にとっては、非日常的な経験によって超日常的な感性が養われ、普段の日常が改めて俯瞰的に価値付けられていく。そんな1泊2日ではないかと拝察します。
さてこういった「厳しさ」もさることながら、募集要項の表題に『大本山永平寺参拝〝と〟朽木高巌山興聖寺参拝・保津川下り・湯ノ花温泉の旅』とあった通り、本山までの行程で付随する旅行が「楽しみ」であり、この「把住と放行」「緊張と緩和」が檀信徒本山研修会の妙味でもあります。
当宗務所では、この研修会旅行のプランを入札によって、所会による採決で決定していますが、今回採用されたのが、ビーエス観光米子営業所さんが提案された上記のプランでした。おそらくですが、入札に投票された方々(所会議員の各教区長、宗務所職員、護持会・寺族会の代表者)の中で「興聖寺」と言えば、「京都宇治」という固定観念があり、まさか滋賀県高島市・朽木の地に同名のお寺があることを知らず、それが反って強い関心を引いたと拝察されます。ビーエス観光さんの作戦勝ちでしょうか。
昨年12月、檀信徒本山研修会の入札を行った所会
斯く言う私も寡聞にして知らずでは、主催者として不適格だと思いましたので、今年2月に事前視察に行き、朽木の街並みを散策して鯖街道沿道の歴史を学んだ後に興聖寺様に拝登して、ご住職の森慈孝老師から打ち合わせかたがた、色々なお話を伺うことが出来ました。
その中で私が驚いたのは、開山堂に祀られている孤雲懐奘禅師像(永平寺二祖、興聖寺開山)が、元は永平寺承陽殿の御上檀に祀られていたもの、というお話でした。
その昔、火災によって承陽殿の道元禅師像が焼失した際、代わりに興聖寺様に祀られていた道元禅師像を差し上げたのだそうです。その見返りに承陽殿に祀られていた懐奘禅師の御尊像を承ったというのです。
宗侶の方であれば、これがどれだけすごいことなのかは説明不要だと思います。一生に一度、永平寺で瑞世拝登(本山で一夜住職を勤めることで、住職になる資格を得るための通過儀礼)した時にだけ見えることのできる、絶対秘仏の五大尊(道元禅師以下、五代住職までの御真像)。元はその一つだった御尊像と、こうして間近に見えることのできる法悦は、今回の旅行でのご縁がなければありませんでした。
「ただの古像ではないのですよ!興聖寺さまの開山堂にあるものは」。行程中、そのことを檀信徒の方々にも縷々説明をしたつもりですか、どれだけお伝えすることができたか・・・。そんな自問を繰り返しながらの道中でした。
実は、この懐奘禅師の御尊像については、ビーエス観光さんも承知しておられませんでした。私が実際に視察して体験したことを業者さんに伝え、要望や情報交換などで、元々あった行程をブラッシュアップしていったのです。
毎年開催される本山研修会ですが、その都度ごとに趣向を変え新味を維持することは、主催者側としては大変な労苦ではありますが、この度の旅行が〝超弩級の法縁〟に見える旅であったということを、ここに改めて明記しておきたいと思います。(教化主事 板倉省吾)
「朽木・興聖寺ホームページ」 http://www.koushoji.jp