かつて尺八・箏・梅花流詠讃歌による「日本の調べ」公演団の一員として、ドイツへの演奏旅行に参加した女性から聞いた話です。
東南部バイエルン州の都市パッサウでの公演は、キリスト教会のホールでした。彼女も含め十数名の演奏団は、団長の宗門自性院(秋田県)鈴木鈴秋老師(琴古流尺八鈴慕会虚空庵大師範)の先導で、夫々舞台中央の十字架イエス像に礼拝を捧げて演奏を始めました。
異教徒の演奏者たちが神に礼拝して奏でる異文化の音色は、聴衆に深い感動を与え、プログラムのラスト、尺八・箏・梅花流による三宝賛歌(三宝御和讃)の気品高い響きが不思議なエネルギーでホールを包み、拍手が鳴りやまなかったといいます。その盛会振りを地元マスコミが敬意もにじませて伝えたそうです。
去る6月27日~29日、本年度本山研修会参加153名の一人として、檀信徒の皆さんと大本山永平寺に参拝し心洗われましたが、永平寺の廊下にはパネルで道元禅師からのメッセージが掲示されています。そのうちの一枚『正しい宗教』に教えられます・・「自分の宗教を信ずるあまり 他の宗教をそしり 果ては憎しみ争うほど愚かなことがあるでしょうか 正しい宗教は いつの時代にも 人々を照らし 平和な生き方へと導くものなのです 宗教者同士が刃をぬいて争うことがあってはなりません」。
昨今、異文化・異教徒間で勃発する残酷な惨事の報道に接し、心が痛みます。そして、文化や宗教の隔たりが少ない筈の国内ですら、根源的には、そのような惨事とも重なり合っていることを否めない事件が発生し、愕然とさせられます。
終戦の日が巡りくる盆施食の時節に「日本の調べ」公演団の話しと道元禅師からのメッセージとを重ね合わせながら想いました・・戦争は最大の人権侵害であることを。そして、差別はもとより、悪意(法律用語のそれではなく心の世界のそれ)は、根源的に人権侵害にさえ連なることを。
(人権擁護推進主事 山口完爾)